コロナ禍の子ども・若者の妊娠相談の実態 緊急避妊薬(アフターピル)処方までのハードル

院内勉強会「新型コロナウイルス感染症の影響下における妊娠不安の実態と緊急避妊薬の課題」

院内勉強会「新型コロナウイルス感染症の影響下における妊娠不安の実態と緊急避妊薬の課題」


2019年7月、緊急避妊薬のオンライン診療が条件付きで承認されました。2020年4月10日からは新型コロナウイルス対策の時限的対応として、初診も含め医師の判断でオンライン診療が可能となり、これには緊急避妊薬も含まれます。
しかし、院内勉強会「新型コロナウイルス感染症の影響下における妊娠不安の実態と緊急避妊薬の課題」から、コロナ禍で子ども・若者が抱える妊娠不安の実態や、緊急避妊薬処方までのハードルの高さが見えてきました。
この記事では、院内勉強会の様子を一部レポートします。現状を知り、ご家庭でできることを一緒に考えてみませんか。
緊急避妊薬がどういうものかわからないという方はこちらも参考にしてみてくださいね。
関連記事:学校では教えてくれない?!男女避妊方法とそのメリット・副作用

■ コロナ禍で子ども・若者は妊娠不安を抱えている 性知識の乏しさも


NPO法人ピルコンの染矢明日香さんは子ども・若者の妊娠不安について次のように話します。


染矢明日香さん:中高生の妊娠相談が増えているという報道がありましたが、ピルコンへの相談でもその傾向が見られています。ピルコンのメール相談件数は2018年が200件、2019年が500件弱、2020年は6月12日の時点で511件の相談がありました。元々増加傾向ではあったものの、緊急事態宣言後にかなり相談件数が増えています。新型コロナウイルス対策による休校措置が取られた3月からは、10代の相談件数が約2倍に増えています。
相談内容としては、意図しない妊娠や避妊に関するものが4割を占めており、ピルコンの相談内容から分析すると、月経が遅れた段階での相談が多く、緊急避妊薬の効果のある性交から72時間以内とわかる相談はわずか7%、72時間以降とわかる相談は69%、緊急避妊薬服用後とわかる相談は2%でした。「生理が来なくて、眠気や吐き気などの体調不良がある。コロナのストレスが原因なのか、妊娠しているのかわからず不安」といった相談はとても多かったです。


また「下着を付けて抱き合ったまま挿入行為なくペッディングしたけれど妊娠が心配」「性器接触はしていないけれど一緒にお風呂に入ったので妊娠が心配」「膣外射精をしたがきちんと避妊できているか不安」といった性知識の乏しさを感じる相談もありました。「初めての性行為でどうしていいか困ってしまった」という相談が目立つという特徴もありました。


ピルコンには以下のような相談もあったそうです。
・妊娠検査薬を買いたいけれども、バイトが休みで収入がないので買えない
・彼氏の家に行くと必ず性行為を求められる
・避妊に協力してもらえない
・自暴自棄になり、出会い系で複数人と性行為してしまった
・性感染症が心配だけれども、新型コロナ感染も心配で病院に行くのも躊躇われる
・母親の恋人から性暴力に遭っていて妊娠していないか不安
・きょうだいが布団に入ってきて体を触ってくる
・学校の先生から性暴力に遭っている

■ 緊急避妊薬の存在を知っていてもアクセスできないという課題




「#なんでないのプロジェクト」の福田和子さんは「新型コロナウイルスと妊娠不安/緊急避妊薬 1545人の調査結果から」を報告しました。
なお、SNSを中心に調査協力を行ったため、知識・意識のある人が多く回答した可能性が高く、回答者の属性に偏りがある可能性があるとのことです。


福田和子さん:まず緊急避妊薬の認知度について、女性の86.2%男性の54.7%が使い方も含めて熟知していました。一方で「聞いたこともない」と回答された女性は2.3%、男性は15%いました。
次にコロナ禍の妊娠不安について、116人が妊娠不安があったと回答しています。妊娠不安の理由は男性用コンドームの使用の失敗が33.6%膣外射精が28.4%一切避妊をしなかったという回答が15.5%、低用量ピルの補充がなくピルでの避妊ができなかったとの回答が10.3%でした。
116人中、緊急避妊薬を入手できた人が20人、そのうちオンライン診療で入手した人が5人、産婦人科に行った人が13人でした。オンライン診療した人のうち、診察から薬が届くまで、翌日の方は3人でしたが、当日は0人でした。
緊急避妊薬の存在を知っていても病院を見つけられなかったり、決済方法がクレジットカードのことが多く、若い人はクレジットカードを持っていないため支払いができない自宅に薬が届くことに抵抗があるなどの悩みがありました。
38人は「緊急避妊薬を断念した」と回答していて、理由として費用の高さや産婦人科受診のハードルの高さ新型コロナ感染不安から病院へ行くことに抵抗があるといった回答が多く見られました。
妊娠不安を抱えた116人中、緊急避妊薬を知らなかった人は1人でしたが、実際に入手できたのはたったの20人でした。


「知っていても処方につながらない」のは、緊急避妊薬へのアクセスのしにくさがあるのだと感じます。海外には、薬局では緊急避妊薬の購入に数百円~数千円かかるものの、医療機関に行けば無料という国もあります。スウェーデンでは13歳~25歳が対象の若者専用のクリニックがあり、そこでは非常に安い値段、もしくは無料で緊急避妊薬を入手できます。そのクリニックは「あなたのプライバシーが守られた上で、必要最低限の重要な医療にアクセスできるのはあなたの権利である。だから守られて当然なんです」という考えがベースにあります。この考え方が日本でも広まってほしいと思います。

■ 緊急避妊薬へのアクセスを向上させるために必要なこと




最後に産婦人科医の遠見才希子さんより、緊急避妊薬診療現場での経験及び今後の課題についてお話がありました。


遠見才希子さん(以下、遠見):日本ではまだ薬局での緊急避妊薬の販売ができず、世界に比べて遅れています。G7では日本を除く6カ国すべてで、日本よりもはるかに安い金額で薬局で緊急避妊薬を購入できますし、WHOや国際産婦人科連合などで「安全に使用できる薬であって医学的に管理する必要もなく、性的リスク行動が増加することもなく、薬局のカウンターでの販売が可能」と明記されています。
日本では緊急避妊薬のオンライン診療は2019年7月に解禁となったものの、地理的な要因がある場合・心理的に対面診療が困難であると医師が判断した場合という厳しい要件がついてしまいました。
また、オンライン診療の要件として約3週間後の対面診療の担保が規定されていますが、科学的根拠がないため、見直す必要があるのではないかと考えています。避妊の成果を確認するために必要とされているのですが、緊急避妊薬を使用して避妊が成功したかは月経がくることでわかります。ただし月経は緊急避妊薬内服の数日後にくることもあれば、3週間後のこともあります。出血の量もさまざまですし、緊急避妊薬によって関係ない出血が生じることもあり、出血が月経なのか判断するのは困難です。
そのため私は患者さんに、月経が7日以上遅れるとき・月経が通常より軽かったとき・妊娠の可能性のある性行為から3週間経過したときには、市販の妊娠検査薬をしてください。陰性であれば妊娠は否定的です。陽性であれば必ず産婦人科を受診してくださいとお話しています。


遠見さんは「厚労省のオンライン診療の検討会を傍聴した中で課題を感じた」ともお話しています。


遠見:オンライン診療の検討会の中では「若い女性には知識がない」「若い女性が悪用するかもしれない」「性被害者だけに対象を絞ってはどうだろうか」といった意見があり、耳を疑いました。緊急避妊薬のオンライン診療を性被害者に限定することは二次被害や人権侵害になると考えています。私は産婦人科医として性暴力被害者の臨床に携わり「なぜ産婦人科に行かなければならないのかわからなかった」「被害に遭ってもすぐに性被害として認識できなかった」「緊急避妊薬をもらいに行ったときにレイプされたとは言えず、コンドームが破けたと話したらちゃんと避妊しなさいと医師から叱られた」などの声を聴いてきました。性暴力被害者が病院を受診すること自体ハードルが高いのに、表面的な理由や態度で目の前にいる人を被害者かどうかジャッジできません。例えば緊急避妊を繰り返す人がいて、その人は安易に緊急避妊を繰り返しているのでしょうか。受診された方の背景や心境を考えていかないと緊急避妊薬へのアクセスは改善されないのではないかと考えます。


参加者からは「性暴力被害者は性感染症のおそれもあるので、産婦人科医としては対面での受診をしてほしく、薬局での緊急避妊薬の販売に慎重なのではないでしょうか」という質問がありました。


遠見:優先されるべきはタイムリミットのある緊急避妊薬だと思います。性感染症の検査は感染後すぐに陽性と出ないこともあります。性感染症検査が陰性から陽性になったことが裁判において証拠となったこともあるため、陰性の時期に検査することも大切ではありますが、緊急避妊薬は72時間以内に服用しないといけません。性の話題は様々な意見が持たれますが、冷静に話し合って進めていく必要があると考えています。


私は今総合病院に勤務していて、自分の外来で緊急避妊薬に特化したオンライン診療を始めようとしています。緊急避妊薬の薬局での販売が認められるためには、薬局の緊急避妊薬の取り扱い実績が不可欠です。そのため院内処方ではなく、院外処方で薬局に処方箋をFAXし、薬剤師さんの緊急避妊薬の取り扱い経験を蓄積します。
オンライン診療を発達させていくことは重要ですが、オンライン診療があっても決済方法などの問題で、全ての人が緊急避妊薬にアクセスできるわけではありません。緊急避妊薬を薬局で入手できることも同時に進めていく必要があります。


染矢さん、福田さん、遠見さんは、緊急避妊薬のアクセス改善を求める市民の声を届け、意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性が、安心・安全に緊急避妊にアクセスできる社会の実現を目指す「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト(通称:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト)」を立ち上げたそうです。こちらも併せてご確認ください。


「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」HP https://kinkyuhinin.jp/


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関連記事:命育「トラブルナビ」

ライティング:雪代すみれ

       

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