「もっと早く知りたかった」を減らすために~「加害者臨床×包括的性教育」の視点から

取材:一般社団法人READYBOX 代表 三上 麗

 
今回、西川口榎本クリニックで開催された漫画『10代のための「性と加害」を学ぶ本』出版記念セミナー*に参加しました。改めて「今の子どもたちがどんな環境の中で育っているのか」を深く考えさせられる内容でした。

※【出版記念】加害者臨床×包括的性教育 〜SEG(Sexual Education Group)の実践を通して Part③〜登壇:斉藤 章佳 先生(西川口榎本クリニック 副院長 精神保健福祉士・社会福祉士)/櫻井 裕子 先生(さくらい助産院 院長 助産師・思春期保健相談士)

 

子どもたちは、想像以上に早く性情報に触れている

ソーシャルワーカーとして、性加害当事者や依存症患者の治療プログラムに長年に取り組んでいる斉藤先生の講演「”加害の扉が開くとき”~300名の性加害少年たちが教えてくれたこと」では、先生が関わってきた10代の性加害少年たちの性の実態が紹介されました。
斉藤先生によると、性加害少年たちの「有害な性情報への最初の接触」の平均年齢は6.5歳、また「最初の性問題行動」の平均年齢は9.6歳だったそうです(「榎本クリニック受診者データ」n=301より)。
 

 
今の子どもたちは、SNSや動画を通して、大人が思う以上に早い段階から性情報に触れています。
しかもその多くは、アダルトコンテンツやSNS経由だといいます。「まだ早いかな」と思っているうちに、子どもたちはインターネットから先に学んでしまう。だからこそ、「自分と相手を大切にすること」を早い段階から少しずつ伝えていくことの重要性を改めて感じました。
 

性加害は「性欲」だけでは説明できない

特に考えさせられたのが、「性加害=性欲だけでは説明できない」という指摘でした。
300名の性加害少年たちのケースから見えてきたこととして、承認されたい・仲間外れになりたくない・強い男だと思われたい・孤独やストレスから逃れたいといった、複雑な感情や背景が絡み合っているといいます。
実際に紹介されたケースでは、スクールカースト上位の男子グループから下位の男子生徒に盗撮をするよう”ミッション”が課せられていました。その生徒はこう語っていたといいます。
 
「やりたかったわけではない。でも学校で生き残るために断れなかった。」
 
子どもたちの問題行動を「悪い子だから」の一言で片付けられない理由が、ここにあると感じました。
 


(『10代のための「性と加害」を学ぶ本 暴力の「入口」「根っこ」「しくみ」を知る包括的性教育マンガ』より)
 

「家に行く」ことと「性行為への同意」は別のこと

また助産師として長年性教育の講演活動をしている櫻井先生の講演では、「事例を通して考える『10代の性と加害』」 というテーマで性的同意に関する事例が紹介されました。好きな相手の家に遊びに行った女子高校生が性的暴力を受けたあと、こう相談してきたそうです。
 
「自分から家に行ったから、同意したことになるんですか?」
 
家に遊びに行くこと・ハグを受け入れること・好きという気持ちは、「性行為への同意」とは別のこと。また、「断ったら嫌われそう」「空気を壊したくない」「怖くて言えない」という状況の中での「YES」は、実質的に自由な意思に基づく同意とは言えない、という話もありました。
日常の中で子どもたちに伝えたいこととして、次のことが挙げられていました。
 

「同意」について伝えたいこと:
嫌なことは断っていい
途中でやめてもいい
相手が嫌がっていたらやめる

 
こうした”境界線”の感覚を、小さいころから少しずつ育てていくことが大切だと感じました。
 

 

「強くあれ」という空気の中で苦しむ男の子たち

「男なら強くあるべき」「弱さを見せてはいけない」「ノリを壊してはいけない」——そういった空気の中で苦しんでいる男の子たちが少なくないといいます。斉藤先生が若者に伝えているという言葉が、とても印象に残りました。
 
「強くなるより、賢くなれ」
 
自分の弱さを知ること・危険な状況を理解すること・助けを求めることを学んでいく。「強くなれない自分」を責め続けるのではなく、自分自身を理解しながら生きていける若者が増えてほしいと思います。
 

AVが作る「普通の性」というイメージの危うさ

今の子どもたちはかなり早い段階から、「女性はいつも気持ちよさそう」「男性はリードしなければいけない」など、歪んだ”普通の性”のイメージを受け取っています。
その結果、「感じない自分はおかしいのでは」と不安を抱える若者も少なくないそうです。
お二人の講演では、正確な身体の知識を伝えると「知らなかった」「安心した」という声が多く聞かれると紹介されていました。
正しい知識が、不必要な不安や自己否定から子どもたちを守ることにつながるのです。また、「人の価値は、体の一部では決まらない」というメッセージは、子どもだけでなく大人にも響く言葉でした。
 

「相談してね」は、子どもには高いハードルがある

保護者や学校の先生等、周りの大人が理解しておく必要があると感じたのは、「相談してね、と言うのは簡単。でも実際に相談するのはとても難しい」という話。
若年妊娠のケースでは、妊娠の仕組みや避妊についての知識を持っていた子も多かったにもかかわらず、大人に相談できなかったケースが多数あったそうです。「心配かけてしまう」「がっかりされそう」「恥ずかしい」といった高いハードルが子ども側にはあります。
日常のやりとりの中で、「困った時に相談しづらい」ではなく「困った時に助けてもらえる」と感じられる関係を少しずつ積み重ねていくことが、いざというときの安全網になるのだと感じました。
 

「まだ早い」ではなく、「もう必要」な時代へ

今回の講演を通じて改めて感じたのは、子どもたちは大人が思っている以上に早く、多くの情報やプレッシャーにさらされているという現実です。
だからこそ包括的性教育は、単に性知識を増やすためのものではなく、「これから人とどう関わりながら生きていくか」を考えるための土台だと思います。
 

セミナーを通じて子どもに伝えたいと感じたこと:
自分を大切にすること
相手の境界線を尊重すること
困った時に助けを求めていいこと
“普通”や”男らしさ”に苦しみすぎなくていいこと

 

新刊書籍のご紹介

今回の登壇者、斉藤章佳先生・櫻井裕子先生のお二人による共著新刊『10代のための「性と加害」を学ぶ本』をご紹介します。
講演の内容がわかりやすくまとまった漫画調の一冊で、重くなりすぎず、それでいて「今の子どもたちを取り巻く環境」を自然と考えさせられる内容です。
気づいたらすぐ読み切ってしまうほど読みやすく、大人にも若い世代にもおすすめです。ぜひ手にとってみてください。
 

10代のための「性と加害」を学ぶ本
暴力の「入口」「根っこ」「しくみ」を知る包括的性教育マンガ

著:櫻井裕子, 斉藤章佳, 絵:イゴカオリ

出版:時事通信出版局

  • 親向け度   :
  • 子向け度   :
  • 読みやすい度 :
  • 笑って読める度:

内容を詳しく見る(Amazonへ)

       

おすすめ性教育コンテンツ