思春期
いざという時に知っておきたい〜低年齢での妊娠・出産のリスクと相談窓口
「低年齢で妊娠・出産する」って何歳のことを指すの?リスクはある?
わかりやすく説明すると、20才未満で妊娠・出産しお母さんになることで、専門用語では「若年妊娠」と言います。
ただし「妊娠は大人になってから」と言っても、「大人」という定義を身体面と経済面、どちらで判断するかによって、妊娠に適した境界線は個々で変わるので、難しい問題です。また、35歳以上になると、少しずつ卵巣の働きが低下し自然妊娠しにくくなってくるため、20代~35才前後が、妊娠しやすい年齢だと言われています。
※若年妊娠は成人前の妊娠をさしていて、現在は20歳に満たない妊娠がそれにあたるとされています。民法改正により2022年4月より成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる予定ですが、若年妊娠の定義が変更になるかは不明です。
Q:低年齢の妊娠のリスクにはどのようなものがありますか?
身体面のリスクとしては、女性の体や心がお母さんになる準備が出来ていないことがあり、流産・早産になったり、子宮内で赤ちゃんの成長が遅くなり、育ちにくい可能性が高くなることがあります。
また、パートナーが親になる準備が出来ていない場合、結婚関係が上手く続かない、仕事や学業の継続が難しくなる、暮らしていく収入が不安定になりやすいなど、社会的なリスクも大きいとも言われています。
Q:低年齢での妊娠・出産は悪いことなんでしょうか?
本人同士が望み、生活をともにする覚悟の上での出産であれば、悪いことではありません。ただ、成人していないゆえの「リスク」があることは、伝えておいたほうがいいと思います。出産や子育てを夫婦だけで行うことはとても大変なので、家族や学校や仕事場からの理解を得る必要があること、市町村などの支援を活用する必要があること、出産や育児にかかる費用や暮らしていくためのお金をどうするか、などを事前に話し合っておくことが大切です。
妊娠中から産後まで、本人の成長にあわせて周囲が注意すべきことは?
できるだけ多くの「支援やサポートを活用する方法」を教えてあげることが、一番良いのではなないかと思います。体や心が大人になる前に妊娠・出産すると、パートナーの協力を得られないケースも多くあります。結果的に、ワンオペでの子育てや家事を強いられたり、経済的不安に陥ったり…。。
だからこそ、周囲の人たちに上手くサポートしてもらうことが必要です。ご両親・保護者が手助けをするだけでなく、公的機関やボランティアなど、手伝ってくれる施設・人の情報を伝えて、上手く使えるように導いてあげてください。
※参考:命育では、妊娠・出産時の不安に相談に乗ってくれるホットラインを紹介しています。お気軽に連絡してみてください。
「トラブルナビ(性の困った!無料相談窓口紹介)」
一人暮らしなど、離れて暮らしはじめたら生理日のチェックは大切に
高校を卒業すると親元を離れ、一人暮らしをはじめる子どもたちもたくさんいます。その一方で、思いがけない妊娠をし、ひとりで悩み苦しむ子も少なくありません。
生理がきていないことに気づかず、法律(母体保護法)ではもう中絶できない、22週0日目をすぎてやっと気づいたり。妊娠が発覚しても病院は怖いから行かないままにして、出産ギリギリまで友達も親も気づかなかったり。産前に気づかず、誰にも知らせず一人きりで自宅出産したり、公衆トイレに産み落とすことにしてしまう子もいます。
親元を離れてゆくことは、とても心配ではありますが、大人として自立するための大切なステップでもあります。だからこそひとり暮らしをはじめる前から、自分で自分を管理する大切さ、例えば生理周期のチェックを習慣化できるよう、教えてあげると良いと思います。
※参考:「母体保護法」厚生労働省ホームページ
出産以外の選択肢は?
低年齢で妊娠した場合、産んで育てる以外の選択肢はゼロではありません。まずはどんな選択肢があるか、知っておくことが大切です。
<中絶(人工妊娠中絶)>
正式名称は「人工妊娠中絶」といいます。妊娠して22週未満(妊娠21週6日)までであれば、中絶という選択肢をとることができます。中絶すると「次に妊娠しにくくなるのでは?」という声をよく聞きますが、妊娠しにくくなるというよりも、体への負担が大きいという点がデメリットです。赤ちゃんが自然に出てくるのを待つのではなく、子宮の中をきれいにするために人工的に外に出そうとするため、体への負担は大きくなります。処置による合併症のリスクもあり、感染症で発熱したり、子宮が傷ついたりする例もあります。
中絶をした場合、次に妊娠した時に、胎盤が子宮の壁にひっついて剥がれにくくなったり、その結果出産時に大量出血が増えたりします。妊娠の可否には影響しないとしても、女性の体に負担がかかることには間違いありません。妊娠週数がすすむほど人工妊娠中絶による女性の体の負担は増えるので、可能な限り早め(できれば妊娠11週まで)におこなう方が望ましいとされています。もし迷うことがれば、早めに近くの産婦人科を受診して相談してください。
※人工妊娠中絶を行う適応条件として
- 妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
- 暴行若しくは脅迫によってまたは抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
が母体保護法で定められています。
※参考:「母体保護法」厚生労働省ホームページ
<養子縁組・養護施設・里親制度など>
やむをえない理由から、親元で暮らせない子どもたちのために設けられた制度・施設です。育ての親と戸籍上の親子になる養子縁組や、実親が経済的に育てられるようになるまで一時的に預かってくれる乳児院や児童養護施設、里親制度など、さまざまな選択肢があります。
思いがけない妊娠で22週を過ぎてしまい、中絶できなくなった場合でも、このような制度をつかうことで赤ちゃんを助けることが可能です。思いがけない妊娠をした場合も、いろんな選択肢があることを是非子どもさんに伝えてください。知っているか知らないかでは、その後の人生に大きな違いが出ます。
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例えば:
娘には、避妊方法としてコンドームと一緒にピルについても教えたいと思っています。何歳頃、どのように教えたらよいでしょうか?
性交や避妊、性感染症のことをきちんと教えたいと思いながらも、早すぎることでセックスに興味をもってしまうのではないかと心配です。
男の子に妊娠や避妊に関して教えるよい方法はありますか?
イラスト:IGA DESIGN
監修:柴田 綾子
柴田先生の一言アドバイス
若年妊娠・出産は決して悪いことではありません。新たな生命を宿し、母親になるということは素晴らしいことです。ただし、体も心も大人になる準備をしている中での妊娠・出産は、色々な危険や困難があることを、ぜひお子さんに伝えてあげてほしいのです。
妊娠・出産・育児は1人きりではとても大変であり、心や体が幼いままに出産すると、大切な赤ちゃんを育てられないリスクが高まります。
産婦人科、市町村役場、NPOでは、思いがけない妊娠で悩む方への支援が準備されているので、ぜひ相談してください。低年齢で妊娠してしまった場合は、まずはその事実を否定せずに受け止めることから始まります。お子さんと一緒に最適な選択を考えていきましょう。
柴田 綾子
淀川キリスト教病院 産婦人科医
名古屋大学情報文化学部卒業するも、在学中の世界遺産を中心とした海外旅行をきっかけに「途上国で弱者となりやすい母子をサポートできる技術と知識を学びたい」と、群馬大医学部3年次に編入。沖縄県立中部病院産婦人科コースで初期研修後,淀川キリスト教病院にて勤務。
活動:
女性医療・保健委員会 チームpcog
関西若手医師フェデレーション
LINEボット:『ラッコの妊娠・性相談室』
『妊婦さんの風邪薬ボット』
本:
『女性の救急外来 ただいま診断中』
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