「自分のセックスのことを、オープンに話せる世界をつくりたい」/一般人によるセックス動画共有サービス『Make Love Not Porn』と性教育への共通の思いとは(起業家 シンディ・ギャロップ)


「ポルノのような演技のセックスではなく、一般人による演技ではないリアルなセックスを集めた動画共有サイト」と聞くと、どんな印象がありますか?一見、過激で、ごく一部のセックス動画が好きな人が観るサイトだと思う人もいることでしょう。
『Make Love Not Porn(ポルノではなく愛を)』は、そんな一般人によるリアルなセックスだけを集めた動画共有サイト。そこには、多くの人が抱えたことがあるであろう、人には話せない「セックスのモヤモヤ」から生まれた多くの共感があり、「自分のセックスのことを、オープンに話せる世界をつくりたい」という、創設者の思いが詰まっていました。
TED2009の発表で大きな注目を集め、今では世界中に視聴者がいるという『Make Love Not Porn』の創設者でありカリスマ女性起業家の、シンディ・ギャロップ(Cindy Gallop)に、性へのタブー視や実現したいセックスの未来、そして、性教育について語っていただきました。

■ 日本では長年性教育がタブー視され続け、親世代自身がその方法を知りません。アメリカは日本よりも性に関してオープンな印象がありますが、実際はいかがでしょうか?



「性」へのタブー視は、率直に言って、私たち全員が同じ課題に直面しています。セクシャリティに関する分野で働いている方、全員です。あなたが、アメリカに対してそう感じているように、より性にオープンであるように見える国も、実際はそうではありません
なぜなら、私はこのアメリカで『Make Love Not Porn』に取り組みはじめてから、「セックス」と「セクシュアリティ」のニュアンスの違いを人々に理解させるために、実に11年もの歳月を費やしました。
人々は、「性」について語りません。語る人は、とても稀有な目で見られます。どうですか、オープンな国だといえますか?

■ アメリカにも日本と同じく、タブーな一面があるのですね。そんな中で、一般人のセックス動画を共有するプラットフォーム『Make Love Not Porn』を立ち上げたきっかけは何でしょうか?



『Make Love Not Porn』を立ち上げたのは、まったくの偶然でした。なぜなら、私が昔、若い男性と付き合ったときの、個人的な経験を通して生まれたものだからです。
12、3年前、私は20代の若い男の子とデートをする関係にありました。そして、彼のベッドでの行為や要求は、驚くものであり、全く喜ばしいものではありませんでした。ふと、「これどこかでみたことあるな」と気づいたのです。
そう、ポルノです。インターネットが普及して以来、誰でも簡単にポルノにアクセスができるようになったにも関わらず、相も変わらず、社会は「性」を語りません。そうして、その若い男の子がそうであったように、多くの若者がポルノを教科書として性行為を学んでいたのです。きっとみんな話をしないだけで、多くの人が私と同じ経験をしているはずだと、確信しました。
そうして11年前、私は『Make love not porn』を立ち上げました。当時はまだ、簡易のwebサイトでしたが、ポルノ界で革新が起こせると信じていました。そう、その一歩として、2009年、TED会議でプレゼンテーションをする機会を得たのです。

■ TED2019で『Make Love Not Porn』を発表したとき、世の中の反応はどのようなものでしたか?



とてもセンセーショナルでした。私が予想していなかったほどの大量のアクセスが、私の小さなWebサイトに集まってきました。世界中のあらゆる国から、何千人ものユーザーが、私にメールを送ってきてくれたのです。
若い人、年取った人、男性や女性、ゲイ、レズビアン…。彼らは、人には言えない性の話を私に伝えてくれました。私は、この偶然から生まれたWebサイトを、より多くの人たちを助けるために、大きくしなければならないと「個人的な責任」を感じるようになりました。ビジネスとして、大きくする責任があると。

※ TED2019登壇の動画はコチラから(英語)


■『Make Love Not Porn』には、若い男女のカップル、年配のカップル、レズビアン、色んな体型の人…実に多様な人たちが出演されていますね。ごく限られた志向の人たちが動画を共有するのではないかと思いますが、実際はどのような人たちなのでしょうか。



私たちは、出演者のことを「Make Love Not Porn スター」と呼んでいます。全ての人たちと面会を行い、私たちの思いに賛同してくれた、演技のない自然なセックスを投稿してくれる人たちだけが「Make Love Not Porn スター」となります。
自分たちのセックスを人に共有するなんて、ごく一部のセックス狂や変わった人たちなんだろうと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。なぜなら『Make Love Not Porn』を立ち上げる前、私たちは身近な周囲の人たちや、その方たちからのつながりで、とにかく色んな人にこの企画について話をし、最後に「あなたも、自分たちのセックス動画をシェアしたいと思う?」と聞くと、多くの人たちが「Yes」と応えたのです。なんと、99.9%の確率で!

作られた世界であり、ときに誰かを傷つけるポルノではなく、リアルな愛のセックスを共有する私たちのサービスに共感し、社会を変えたいという思いを抱いてくれたからこそでしょう。
ちなみに、『Make Love Not Porn』には顔を見せずに投稿する方法と、顔をカットすることなく投稿する方法があります。職場の人間や家族、知らない人たちに自分の顔を露出するのを嫌で、顔をカットする人たちは、半分。それ以外の半分は、顔出しのセックス動画を投稿しているのです。


(ご両親の影響で、子どもの頃からアンティークが好きで大切にしてきたというシンディさんのご自宅には、たくさんの本とアンティークで溢れていました)


■「Make Love Not Porn スター」たちには、お金は支払われるのでしょうか?


視聴者が支払うお金のうち、半分を「Make Love Not Porn スター」に支払い、残りの半分が、私たち運営に分配されます。視聴されればされるほど、出演者は収入を得ることができ、文字通り、私たちはスターとなる人たちを作っていきたいと思っています。
ただ気をつけていることは、YouTubeはじめ、他の動画ストリーミングプラットフォームとは異なり、私たちのサイトには動画の視聴数は表示されません。動画の人気ランキングも表示されません。なぜなら、現実の世界でのセックスは、競争とは異なるからです。また、それぞれの「Make Love Not Porn スター」やそれぞれの愛のセックスを大切にしたいからです。
そして、視聴数が見えることで競争心が生まれ、より視聴数を得るためにリアルなセックスを共有しなくなることを避けたいからです。そのために、全ての動画にスタッフが目を通しスクリーニングしています。

―――「リアルなセックスの共有」への徹底ぶりから、いわゆる一般的なポルノとは全く異なるセックス動画であることがわかります。サービスの話から、シンディ・ギャロップさんが思う性教育への課題や考えについて、話は移ります。

■ 全く異なるアプローチではありますが、「リアルな愛あるセックスを伝えたい、という思いは性教育に通じる」というシンディ・ギャロップさん。性教育に関しては、どのように考えていますか?




冒頭にも話をしましたが、アメリカも日本と同じく、性へのタブー視があり、それは性教育においても同じです。親と子は、十分に性について話をしていません。そこには、2つの課題があると感じています。
1つは、まだ早すぎるからと、セックスについて子どもと話すことができないということ。私は、出会った両親たちには、できるだけ早く子どもとセックスについて話をして欲しい、と伝えます。
子どもから性に関する質問をされたとき、子どもの性行動をしったとき、あからさまに、恥ずかしがったり、何ともいえないイヤな気分になったりしないでください。代わりに、自然に、いたって普通に答えてください。そうすれば、あなたと彼らとの間に、性に関するコミュニケーションのドアが開くでしょう。そしてその先、子どもたちは、親と子の話をしてもいいんだと、思ってくれることでしょう。
それから2つめは、私には素晴らしい性教育者である友人たちがいます。しかし、彼らは性教育の仕事だけでは、生計を立てることさえできません。彼らは、彼ら自身をサポートするために、他の仕事をしなければなりません。性教育という仕事は、非常に貴重で重要な仕事であり、お金をもらえるべき仕事だと思っています。世界中のこの分野で働いているすべての人のために、グローバルなハブをつくり、彼らが生み出しているものの価値を披露したいと考えています。
性教育者やあなた方のサイト「命育」も含め、この分野で素晴らしい仕事をしている、他のすべての人と協力しあい、それを実現したい。『Make Love Not Porn』は、性をオープンに話せる社会をつくるという文脈において、性教育と全く同じ原理に基づいているのです。

■ ここ数年、日本では、少しずつ性やジェンダーを取り巻く社会の変化が起こっています。特に女性にとっては。日本の女性たち、そして日本のマーケットについてはどのように考えていますか?



私は、これまでビジネスをする中で、何度となく日本を訪れ、多くの日本人女性と話をしていました。そして、年々、日本の女性がこれまでの社会の状況に耐えられなくなってきた、耐えるのではなく変えなければない、という意識に変わってきていることが伝わってきます。そう、それはとても素晴らしいことです。

そして、そんな時代になってきたからこそ、『Make Love Not Porn』は、日本においても受け入れられる可能性が大いにあると考えています。日本では、なかなか受け入れられるのは難しい、そう言ってくる人はたくさんいます。しかし、私は30年以上にわたり、広告ビジネスに携わってきた者として、「日本人を変えてみせる」。そのために、まずは日本でアンダーグラウンドな日本人チームをつくりたい。そして彼らと協力して、日本製の『Make Love Not Porn』をつくりたいと思っています。そのために、もう何年も、日本の投資家を探しているところなのです。

何より、日本の人たちが、私たちが築いてきた「ポルノではない愛のセックス」に強い関心があることを、私は知っています。
世界的にみても『Make Love Not Porn』へアクセスしてくるユーザーのうち日本からのアクセスは、アメリカを除き、トップレベルで高いのですよ。



Cindy Gallop(シンディ・ギャロップ)/起業家・MakeLoveNotPorn創設者
ブランディング、マーケティング、広告を専門とする。米国広告業界の第一線を30年以上も走り続けるカリスマ起業家。
広告代理店Bartle Bogle Hegartyの米国オフィス創設、IfWeRanTheWorld、MakeLoveNotPorn創設。
主な受賞歴:
・2003年にAdvertising Woman of the Yearに選出
・Twitter/「テクノロジー分野で最も影響力のある女性100名」33位、「広告業界でフォローすべき人物30名」1位に選出
Twitter\ Follow me! /@cindygallop




編集後記:

全身黒色の服、白髪に近い髪の毛、カリスマ起業家と呼ばれるCindyさんが語る「性」の話は、多くの人(特に女性)が抱えたことがあるであろう「性の悩み・モヤモヤ」に寄り添う話でした。
「究極は、『Make Love Not Porn』が使われなくてもいい、性をオープンに語れる世界になってほしい」もう何十回、何百回も、『Make Love Not Porn』のコンセプトを語り続けてきたというCindyさん。
アメリカでポルノ革命を起こした『Make Love Not Porn』が日本にくるとき、日本人に受け入れられるまで、また何度も思いを発信することでしょう。

Make Love Not Porn ~ ポルノではなく愛を

取材・撮影・執筆:命育編集部/シンディ・ギャロップさんのご自宅にて

       

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