自分や相手を大切にするきっかけに「生教育プロジェクト」出張授業開催レポート

生教育プロジェクトレポート①

「性を学ぶことは、生きるを学ぶこと。」をコンセプトに誕生した命育×朝日学生新聞社×電通による「生教育プロジェクト」。親子で性について学び、話すことを目的として2022年4月にスタートしました。

 

命育は「朝小かぞくの新聞」「朝日学生新聞デジタルプラス」の企画連載を担当。著名人や専門家のインタビューを通じて、個の大切さや子どもへの接し方などをお伝えしてきました。

 

プロジェクトの一環で、12月某日に東京都中央区立月島第二小学校で出張授業が実施されました。講師は、命育の「性のお悩みQ&A」の監修もしている性教育講師・思春期保健相談士の中谷奈央子さん。心や体の変化を迎える小学校4年生の子どもたちに「自分を大切にすることや相手を思いやること」を伝えました。

 

「こんにちは!」と大きな声で挨拶を返す子どもたちに、中谷さんも「とっても元気ですね」と笑顔に。和やかな雰囲気で行われた授業の様子をレポートします。

生教育プロジェクトレポート②

 

自分を守る「プライベートゾーン」の知識と相手を尊重する「同意」

まずは、自分の体を守るための大切な知識である「プライベートゾーン」について。
 
胸や性器、お尻といった「水着で隠れるところと口」は、プライベートゾーンといって、自分の大切なところであり、他の人が勝手に触ったり、ジロジロ見たりしてはいけないことを伝えます。男の子の水着はパンツのみのこともありますが、「男の子が胸を見せたくない場合はラッシュガードなどを着るといいよ」と加えます。
 
誰かにプライベートゾーンを勝手にジロジロ見られたり、触られたりしたときに「イヤだ」と感じるのは、「自分の心や体を守るセンサーが働いている状態で、とても大切な気持ち」と中谷さん。このときに、自分を守る3つの方法を教えてくれました。

 

<自分の心・体を守る3つの方法>

  • ・「イヤだ」「ストップ」と言う
  • ・(その人から)逃げる、離れる
  • ・大人に話す

とはいえ、友達や家族など、相手が知っている人であるほど「イヤだ」とは言いにくいこともあります。中谷さんも「イヤだ」と言うのが苦手でしたが、練習しているうちに言えるようになったそうです。ただ、たとえ言えなくても、言えなかった人は悪くないし、自分を責める必要はないと覚えておくといいと言います。

・相手の気持ちがわからないときは確認しよう

何を「イヤだ」と感じたり、好きだと思ったりするかは、人によって異なります。相手がどう感じるかわからないときの方法として、中谷さんは聞くことをすすめます。
 
「手をつないでいい?」「消しゴム使っていい?」など、たとえ物であっても相手に確認することが大切だと言います。「相手に確認し、OKをもらう=同意を取る」ことで、相手を思いやることができるのです。
 
もし相手から「イヤだ」と言われたら、やめることも大切です。「イヤだ」と言われて傷ついてしまう人もいるかもしれませんが、「その行為について言われただけで、自分を否定されたわけではない」ことも覚えておくといいそうです。

 

ジェンダーバイアスにとらわれず、自分の「好き」を大切にしてほしい

続いて中谷さんは、一枚の赤ちゃんの写真を見せて、子どもたちに「この赤ちゃんの性別は?」と問いかけました。「男の子?」「女の子?」「わからない」など、子どもたちからはさまざまな意見が飛び出します。
 
ここから医師が赤ちゃんの性器から性別を判断する「体の性」があることに触れ、性には色々あることを伝えます。

 

  • ・体の性
  • ・心の性
  • ・好きになる人の性
  • ・表現する性

体の性と心の性は必ずしも同じでないし、人それぞれ異なります。つまり、この赤ちゃんの場合も「性器が隠れているので体の性もわからない。ほかの性も今の段階ではわからない」と中谷さんは言います。

・ジェンダーバイアス

「女の子だからピンクが似合うね」「男の子なんだから、転んだくらいで泣かないの」

 

小学6年生の娘さんと小学3年生の息子さんを育てている中谷さんは、外出先でこのような言葉をかけられることが何度かあると言います。言われるたびに「女の子が何色を選んだっていいんじゃない?」「男の子でも転んだら痛いやろう」と不思議に思うそうです。

 

このような性別に対する固定観念を「ジェンダーバイアス」と言います。「女の子だから、しっかりしているわね」など、ほめ言葉のつもりで口にしていることもあるかもしれません。実際に、「(性別にとらわれた言葉をかけられることは)結構ある」と答えた子がいました。

 

中谷さんは、「性別にとらわれず、誰が何を選んでもOK。自分が好きだと感じることや面白いと思うことを大切にしてほしい」と子どもたちにエールを送りました。

 

 

体や心の変化が訪れるタイミングは人それぞれ。人の見た目の変化や体のことをなるべく口にしない

思春期になると体や心が大人に近づくため、さまざまな変化が起こります。人との違いが気になることもあるかもしれませんが、心に留めておくと良いことを以下に紹介します。

<思春期に向けて心に留めておきたいこと>

  • ・人の体はそれぞれ異なり、一人ひとりが大切
  • ・思春期の体の変化が起こるタイミングやペースは、人によって異なる
  • ・困ったときは、大人に相談したり、本で調べたりするといい
  • ・人の見た目や体の変化をからかわない。例えほめ言葉であっても相手はイヤな可能性があるので言わない

中谷さんは、思春期の体の変化について「科学的な知識を持ってほしい」と伝えます。自分の体にこれからどのような変化が起こるかを正しく知っておけば、安心につながるだろうと考えるからです。

 

自分にできることを考えよう

 
授業の終盤に、中谷さんは子どもたちに「今日の話を聞いて、自分を大切にし、相手を思いやるために、自分に何ができると思う?」と問いかけました。
子どもたちからは、「相手に確認する(同意を取る)」「人の気持ちを考えて行動する」「いやだと言いやすい雰囲気を作る」などの意見が出ました。
 
「みなさんには、『イヤだ』と答えても壊れないような関係性を周りの人と築いてほしい」
 
授業を聞いていて驚いたのが、半数以上の子どもが「(プライベートゾーンを)知ってる!」と答えていたこと。性について家庭で話す大切さを改めて実感しました。
 
 
■あとがき

出張授業の後、命育スタッフ2名が椅子を2脚ずつ持って運んでいると、先ほど授業を聞いていた4年生の2人がこちらを見ていることに気づきました。そして、「持ちます」と声をかけてくれ、1脚ずつ運んでくれたのです。誰かに促されるのではなく、自然と手助けできる優しさに胸が温かくなりました。

 

講師:性教育講師・思春期保健相談士 中谷奈央子
ライティング:畑菜穂子
協力:朝日学生新聞社、電通

       

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